大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和24年(を)429号 判決 1949年12月13日

被告人

松田信夫

主文

原判決を破棄する。

本件を靑森地方裁判所八戸支部に差戻す。

理由

弁護人岡本共次郞の控訴趣意は別紙の通りである。

職権を以て調査するに、原審第一回公判調書中には被告人の供述として裁判官の本件拳銃は新しい彈丸でやると使えるのかとの問に対し「使えません」なる旨の記載、更にまた「実際役に立たないもの」なる旨の記載存するに拘らず、何故使えないのかその原因を審査した記載がない。また記録を精査するも之を明確ならしめるに足る資料がない。而して銃砲等所持禁止令制定の趣旨とするところは國民の武器を剥奪し、その解除を目的とするものであるから同令はよつて所持を禁止される物件は人を殺傷するに足る危險性を具えているものでなければならないことは当然である。従つて危險性の存否は同令違反罪の成否に影響しその危險性の大小は犯情として刑の量定に影響を來すものと謂はなければならない、されば此の種違反罪の審理に際つては特に此の点を明確にしなければならない筋合である。本件について之を見るに本件拳銃(証第二号)の外形や弁護人の「廃品同樣の本件拳銃」なる主張に依ると絶対的に危險性のない所謂廃品であるとは断じ難く被告人の右供述も発射機能の否定に過ぎないことを推知し得ない訳ではないが、このようにその性能について爭があり異常を疑はしめるものがある場合に於てはその故障の原因を究明し現在の社会情況下に於て修繕が可能であるかどうか、修繕によつて発射機能を回復することか出來るかどうか等の点はついて鑑定を命ずる等適宜の措置を講じ之を参酌して合理的判断を下すのでなければ本件の拳銃が銃砲等所持禁止令第一條同令施行規則第一條の所謂銃砲に該当するか否かを決し難くひいては適切な刑を量定処断することが出來ないのである。然るに前段説示の通り斯る措置に出てなかつた原判決には審理不盡の違法があり破棄を免れないことになる。

尚原判決認定の事実に依れば、被告人の本件犯行は昭和二十四年二月二十日頃の違反事実に係り罰金等臨時措置法施行後の犯罪であるから、判示事実に対する法令の適用に際つては右罰金等臨時措置法をも併せ適用しなければならないのであるが、之を適用していない原判決には此の点に於いても擬律錯誤の違法がある。

よつて弁護人の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第四百條本文に則り主文通り判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例